R-15指定
公開:2020年
監督:片山慎三
脚本:岨手由貴子
主演:清瀬やえこ
安井秀和
上映時間:34分
あらすじ
撮影所で雑用係として働く紗希は、<翔>と名乗る俳優と出会う。翔の望みをかなえるために紗希は借金を重ね、撮影所の資金を盗んでまで翔に貢ぐ。ところがある日、紗希は翔の秘密を知ることになる。そして秘密を知った紗希は…。
片山慎三監督が、2019年に起きた「新宿ホスト殺人未遂事件」に着想を得て制作した映画です。
34分という短編ですが、これ以上伸ばさない方が良いと思うほど中身の濃い作品になっています。
題材としてはよくある話なんですが、見せ方が上手い。
引き込まれたままあっという間に終わる、そんなパンチのある作品です。
特にラストの数分がものすごく良いです。
映画のヒロイン・紗希は、全く何も報われることなく最後の狂気に至るのですが、このラストだけには救いがあります。
映画を観終わった後に、う…んと唸ってしまうのは、このラストがあるからかもしれません。
恋は盲目
「紗希の気持ちなんて全然わからんわ!」という女性は、非常に少ないのではないでしょうか。
紗希が抱える悩みや思いは、誰にでも経験があると思うんです。
好きになってしまったら、その人にとっての<特別な存在>になりたい、その人の一番でいたいと思うのは普通の感情だと思います。
喜んでくれればうれしい、何でもしてあげたいと思ってしまう。
恋は盲目とはよく言ったもので、紗希はまさしくこの状態。
周りが見えないと言うか、自分でどんどん社会を閉じていくんです。自分と相手と2人だけ、そんな状態にしてしまいます。
麻薬のような男
紗希の腕には、無数のリストカットの跡がありました。
彼女はきっと生きにくい人なんでしょうね。
承認欲求が人一倍強いのかもしれません。
これまでに付き合った相手も、ろくな人がいないというようなセリフがありました。
そういう人に限って、翔のような男に引っかかる。
翔は紗希にとって<麻薬>のような男です。
紗希の満たされない思いを強烈に補ってくれる。だからやめられない。
翔にとって紗希は単なる金づるであり、何でも言うことをきく<都合のいい女>でしかない。
2人には恋愛関係が成立してないから、紗希はいつまでも尽くなければならない。
結局のところ紗希は、最初から最後までずっと<片思い>だった。
傍から見ればそれがわかるんですが、当人には…ムリですよね。
天性の詐欺師
翔が紗希を操るためにやってることって、非常に単純な方法です。
例えば、子供に対して何か課題を与えて、できれば「良くやったね」とほめる。すると子供は嬉しいもんだから、次の課題に挑戦するようになる。
翔は、あれが欲しいとか、これをしてほしいとか、<特別な存在になるための課題>を紗希に与えるんです。
達成できれば「うれしいよ」と誉める。
紗希は嬉しいし期待するもんだから、また課題を達成しようとする。これの繰り返し。
しかも翔は「あれが欲しい」とは絶対に言わないんですよね。
「かっこいいジャケットを見つけたんだ。あれを紗希が着たらいいだろうなぁって思ったんだよ」などと言う。
「彼氏のジャケットを着てる彼女って、かわいいと思わない?」と、とどめを刺す。
こういうのって天性のものなんでしょうね。口が上手いと言うか何といいうか…。
でもねぇ…、
ああいう男って…モテるだろうなぁと思う。
紗希も言っていましたが、「私だけが彼をわかってあげられる」と、ついつい思ってしまうんですね。
男性から見れば、あんな軽薄な男、と思うでしょうけど(それが正しい!)、女性にはああいう悪そうな<詐欺師>みたいな男に惚れてしまうとこがあるんです。
「自分がこの人を守るんだ!」みたいな気持ちというのか、「私がこの人を変えるんだ!」とかね。
そうすれば、自分の存在価値を実感できるからかなぁ?
何でもそつなくこなす人は「すごいなぁ」と尊敬するけれど、「強烈に惹かれる」というのは…ないのかもしれませんねぇ。
女性というものは、男性の弱いところ足りないところに惚れてしまう…。
だからたまに間違って<正真正銘の足りない男>に惚れてしまったりするんでしょうかね。
恋愛は恐ろしい
恋愛って、本当はものすごく怖い事なんだと思います。
良く知らない相手と親密な関係になるのは、考えてみればものすごく危険なことですよね。
たとえ「どこの誰々」と知っていても、それ以上の事ってわからないし、「どこの誰々」だって本当かどうかわからない。
中身なんてもっとわからない。
DVかもしれない、性格的に欠陥のある人かもしれない。すんなり別れられればいいけれど、ものすごくもめることだってある。
結婚詐欺師なんかに引っかかれば、それこそ悲惨。気持ちの他にお金さえ取られてしまうんですから。
<クヒオ大佐>という堺雅人さん主演の映画がありましたが、あれ、ほぼ実話ですからね。
カメハメハ大王とエリザベス女王の親戚って、「そんなもん、ありえへんやろ」と思うんですが、信じちゃったんでしょうねぇ…。
ついこの間(2020年11月)も、「マーク・ジェリー少佐」に騙された58歳の女性がいました。
SNSの交流サイトに軍人は来んやろ、と思うんですけど、当人は真剣だったでしょうからお気の毒です。
まとめ
これは、どうまとめたらいいのやら。
映画もドラマも小説も、世間ではなにかと<恋愛>に過大な価値を置きたがるけれど、どうしても恋愛しないといけないとか、そんなことはないからね。
モテるとかモテないとか、人間の価値とか重要性はそんな所にはないし、ある年齢を過ぎればモテるってこと自体が危険なことにもなってくるから。
恋愛感情は<突然に仕方なく>持ってしまうものだから、そうなってしまったら諦めて浸っているしかないけれど、持たないなら持たない方が良いと思うよ。
時間も気力もお金も、恋愛に奪われなくて済むからね。
なんだか身も蓋もないような話になっておりますが、
恋愛には危険がいっぱいということで、本日はお開きとさせて頂きます。
たいへん興味深い映画です。ぜひ一度ご覧くださいませ。